第四章(1)第四章 白と黒目が覚めると目の前に数人の人影がぼんやりと見えた。気だるい気持ちのままもう一眠りしようとしたが、人影の中に見覚えのある人間を見つけて跳ね起きる。 「ラクール!」 ロキの横たわるベッドの脇に立つ少年は間違いなくラクールだった。 「お、お前、身体は大丈夫なのか?腕はくっつけてもらったのか?」 ラクールは爆風でバラバラになったはずなのに、見た目にはごく普通の身体に見えた。赤い派手なTシャツの袖から見える腕には手術痕のようなものは見当たらない。 「おう、お前こそ元気か?」 大声でそう言うとラクールは起き上がったロキの背中をバシバシ叩く。ロキは思わず咳き込んだ。 「・・・ああ、たぶん大丈夫だ」 ロキは目の前にいるラクールに違和感を感じた。ロキとラクールは親しい仲ではあったが、もともとリーダーと手下の関係であったし、ラクールは大人しい性格だったので、彼のこんな挙動は見たことがなかった。 「お前・・・ほんとにラクールか?」 そのとき病室の扉が屈強な軍人の腕によって開かれ、テレーズ卿がゆっくりと入室した。 「ふぉっふぉっふぉ。目が覚めたか」 「・・・じじい、ラクールに何をした!?」 テレーズ卿は長い顎鬚を撫でながらベッドの上のロキを見下ろす。隣では軍医が会話を妨げない程度の小声で容態を説明している。 「何をした?ほむ不可思議な質問じゃ。ワシはお前との約束を守っただけじゃがなぁ」 「じじい、さっさと質問に答えろ」 「ほむ。病み上がりのくせに元気じゃのう。手術もその後のリハビリも完璧じゃよ。今では重症を負う前とほぼ同じ状態になったはずじゃ」 「おうっ、身体のどこにも違和感はねぇし、すこぶる元気だぜ!」 間でラクールが口を挟んでくる。 「・・・・・・」 ロキは黙ってテレーズ卿を睨みつける。 「ふぉっふぉっふぉ。ただなぁ、頭部の損傷だけは難航してのう。人間の身体の中でもっとも繊細な部分だからのう」 「・・・だからつまりどういうことなんだ」 「前頭葉は分かるじゃろう?脳の中で人間の感情を司る部位じゃ。まぁ、修復するのはワシの力をもってすれば簡単なんじゃが、ワシはラクールの元々の性格を知らんからのう。だから修復の仕方もテキトウ、性格もテキトウじゃ!」 「・・・じじいてめぇ!」 「まぁ、命は取り留めたのだから性格なぞどうでも良かろう!」 怒り心頭で起き上がろうとするロキにテレーズ卿は一枚の紙切れを差し出す。 「・・・何だよコレ」 「あの女のデータじゃ」 「あの女?」 「お前が昨晩捕まえた女のデータじゃ」 ロキは今の今まですっかり忘れていた。 「あ・・・あの女!あれからどうなったんだ!?」 「ほむ。ワシが指揮して援軍を派遣したら、お前と侵入者が仲良く古ビルの屋上で寝てたんじゃ。二人を回収してから今が6時間後かのう」 「それで、あの女は何者なんだ?魔族か!?」 ロキは手渡された紙切れにさっと目を通すが、専門用語だらけで訳がわからない。 「高い確率で正真正銘の人間じゃ。今は研究棟の地下最下層に幽閉しておる」 「ロキ、魔法使いに勝ったんだってな!さすがリーダーだぜ!」 ラクールは本当に嬉しそうに笑っている。中身はどうにもラクール本人とは感じられないが、ロキを心底慕っている部分は変わらないらしい。 「それで、これからあの女はどうするんだ?」 「ふぉっふぉふぉ。それは分からん。これからお前を連れて行こうと思っておったところじゃ」 ロキはすぐさま支度を始めた。追跡中にボロボロになった服の変わりに、手渡された濃紺の軍服に袖を通す。階級章は付いていない。 |